1日 水を2リットル飲む」は本当?

オフィスに並ぶ2リットルペットボトルの謎

  ある日、会社に出勤すると、同僚たち3人の机に見慣れない光景が広がっていました。なんと、みんなが揃って2L(リットル)のペットボトルを机上に置いているのです。そびえ立つ2Lペットボトル群に驚き、「どうしたの?」と尋ねると、「1日に2Lの水を飲むべきだ」という話を聞いたとのこと。確かに500mlを4本買うより2L1本の方が価格ははるかに安いですし、ゴミも減ります。経済的で環境にも優しい、実に合理的な判断です。

  でも、ちょっと待ってください。そもそも「1日2L」って本当に必要なのでしょうか?この数字、どこから来たのでしょう。今回は、この疑問を科学的な根拠とともに検証し、私たちに本当に必要な水分摂取について考えてみたいと思います。

「2リットル」の真実

  結論から言うと、「1日に水を2L飲むべき」というのは、一つの目安に過ぎません。

  公益財団法人長寿科学振興財団が運営する健康長寿ネットによれば、私たちの体が1日に必要とする水分は約2.5Lです。しかし、この2.5Lすべてを「飲む」必要はないのです。

  実際の内訳はこうなっています。

  • 飲料水から: 約1.2L
  • 食事から: 約1.0L
  • 体内で生成される代謝水: 約0.3L

  これによると、飲み物として摂取すべき量は約1.2Lとなっています。そもそも「2L飲むべき」という話は、主に欧米の研究から広まったものです。欧米の食事は食物からの水分摂取が20〜30%程度ですが、日本の和食は汁物や煮物など水分含量の高い料理が多いため、食事から約40%もの水分を摂取しています。加えて、「日本人を対象とした信頼度の高い研究は極めて乏しい」となっています。

  そしてなにより重要なのは、『一律に「何L」と決めることはできない。』ということです。体重、年齢、性別、運動量、その日の温度・湿度などによって必要な水分量は変わってきます。

水分不足で起こること

  では、水分が不足するとどうなるのでしょうか。実は、体の水分が少し減っただけでも、私たちの体には様々な変化が現れます。

  体重に対する水分減少率と症状

  • 1%の減少: のどの渇きを感じる
  • 2%の減少: めまい、吐き気、食欲減退
  • 10〜12%の減少: 筋けいれん、失神
  • 20%の減少: 生命の危機

  のどが渇いたと感じた時点で、すでに脱水が始まっている状態です。特に注意したいのは、夏場や運動時です。汗として大量の水分が失われるため、意識的に水分補給をする必要があります。

  また、高齢者の方は特に注意が必要です。加齢とともに体内の水分保持能力が低下し、のどの渇きも感じにくくなります。気づいたときには深刻な脱水状態になっていることもあるのです。

  水分不足は、熱中症だけでなく、血液がドロドロになることで脳梗塞や心筋梗塞のリスクも高めます。血液がスムーズに流れないと、細胞に酸素が届かず、免疫力の低下や内臓機能の低下を引き起こしてしまいます。

  こまめな水分補給のコツ

  • 起床時、就寝前にコップ1杯
  • 食事のたびにお茶や水を飲む
  • 運動前後は多めに
  • のどが渇く前に飲む習慣をつける
  • 尿の色をチェック(濃い黄色は要注意)

  コーヒーやお茶も水分補給になりますが、カフェインには利尿作用があるため、水や麦茶なども併せて飲むとバランスが良いでしょう。

 

飲みすぎにも注意が必要

  「水分不足が危ないなら、たくさん飲めばいい」と思うかもしれませんが、実は飲みすぎも危険なのです。

  過剰な水分摂取によって「水中毒(低ナトリウム血症)」という状態になることがあります。これは、血液中のナトリウム濃度が薄まってしまう症状で、頭痛、吐き気、錯乱、むくみ、だるさなどが現れます。重症化すると意識障害や呼吸困難を引き起こし、命に関わることもあります。

  特に短時間に大量の水を飲むのは危険です。1日3L以上の水を飲む場合や、運動中に水だけを大量に摂取する場合は注意が必要です。スポーツをする際は、適度に塩分も一緒に摂取しましょう。

まとめ:あなたに合った水分摂取を

  「1日2L」という数字に縛られる必要はありません。大切なのは、自分の体の声に耳を傾けることです。

  のどが渇く前にこまめに水分を補給し、尿の色や体調をチェックしながら、自分に合った量を見つけていきましょう。食事からも水分を摂取していることを忘れずに、バランスよく水分補給することが健康への第一歩です。

  オフィスに2Lペットボトルを置くのも良いですが、それを無理に全部飲み切ろうとする必要はありません。自分のペースで、適切な水分補給を心がけていきましょう。

参考文献

  • 健康長寿ネット「水は1日どれくらい飲めば良いか」公益財団法人長寿科学振興財団 https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/shokuhin-seibun/water.html

 

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